EPAの自己申告制度を利用した日本からの輸出について
EPA税率の適用に際しては、対象産品が協定上の原産品としての要件を満たしているかを確認する必要があります。
1.EPAの自己申告制度を利用した日本からの輸出に係る相談 | 2.EPA税率の適用を受けるための流れ |
1.EPAの自己申告制度を利用した日本からの輸出に係る相談
EPA原産地センターにおいて、日豪協定、CPTPP、日EU協定、日英協定、RCEP協定(豪州、ニュージーランド仕向)に係る自己申告制度を利用した日本からの輸出に係る相談を承っております。
EPA税率の適用を受けるための流れをご一読いただいた後、ご不明点等がございましたら是非ご利用ください。
- RCEP協定において輸出者又は生産者が自己申告制度を利用できるのは、豪州、ニュージーランドへの輸出のみです(2024年6月1日時点)。例えば、中国や韓国へ輸出する場合、自己申告制度はご利用いただけませんのでご留意ください。
- 第三者証明制度を利用した輸出に係るご相談については、以下をご利用ください。
2.EPA税率の適用を受けるための流れ
輸出貨物のEPA利用のステップ(PDF;117KB)に沿って確認方法を説明いたします。
- 輸出貨物のHS番号を特定
- EPA税率が設定されているかを確認
- 適用される原産地規則を特定
- 原産地規則を満たすかを確認
- 輸出面での原産地手続
- 相手国におけるEPA税率の適用
- 必要に応じ相手国からの検証に対応
※中古品に対する日EU協定・日英協定の原産地規則の適用について
ステップ1 輸出貨物のHS番号を特定
HS番号とは、「商品の名称及び分類についての統一システムに関する国際条約(HS条約)」に基づいて定められた、輸出入の際に産品を分類する番号です。6桁からなり、世界200以上の国・地域で使用されており、輸出入共通です。
「輸出統計品目表」(日本における輸出申告で使用)、または「実行関税率表」(日本における輸入申告で使用)で調べることができます。
【輸出統計品目表】
また、HS番号に関するお問合せは、各税関の関税鑑査官部門でお受けしています。
ただし、輸出貨物に係る輸入国でのHS番号は輸入国税関が最終的に判断しますので、本回答は相談者への参考意見にとどまること、また、ご相談の際には産品又は材料に係る製法、成分割合、性状、構造、機能、用途等に関する具体的な資料をご提供いただく必要がありますので、あらかじめご承知おきください。
なお、輸入貨物に適用されるHS番号は輸入国税関の判断に拠ることから、日本から輸出される貨物に係る輸入国におけるHS番号について判断に迷う場合には、輸入者等を介して輸入国税関に事前教示制度等を利用してお問い合わせいただくことが最も確実な方法となります。
ステップ2 EPA税率が設定されているかを確認
まずは輸出しようとする産品にEPA税率が設定されていること、MFN税率(※)よりも低い税率が設定されていることについて、譲許表などを用いて確認します。
(※)MFN税率とは、実行最恵国税率のことで、WTO協定税率など相手国において一般的に適用される税率をいます。
譲許表とは、各協定の関税撤廃又は引き下げ(関税譲許)のスケジュールが定められた表です。各協定の附属書において確認することができます。
(協定により表の構成や記載事項が異なりますが、内容はおおよそ共通したものとなっております。)
詳しくは経済連携協定(EPA/FTA)等をご覧ください。
相手国での関税率は、産品のHS番号から、相手国側譲許表や日本貿易振興機構(ジェトロ)ホームページ等によって確認することができます。
【相手国側譲許表】
ジェトロホームページに掲載されているWorld Tariffとは、米国FedEx Trade Networks社が提供している世界の関税率情報データベースであり、世界各国のMFN税率やEPA税率等を調べることができます。日本居住者については、ジェトロと同社の契約により無料で利用できます。
ステップ3 適用される原産地規則を特定
EPA税率の適用を受けるためには、前提として、協定上の原産品と認められる必要があります。まずは、それぞれの協定に定められる「原産品」の要件を確認します。
協定によって異なる部分もありますが、基本的には以下の(1)〜(3)いずれかの要件を満たす産品が原産品とされます。
(1)完全生産品
完全生産品とは、その「生産」が1か国(※)で完結している産品であり、該当する産品が協定において具体的に掲げられています(例:生きている動物であって、当該領域において生まれ、かつ、成育されたもの:CPTPP第3・3条(b))。
(※)CPTPPでは「一又は二以上の締約国の領域において完全に得られ、又は生産される産品」とされており、域内全体を一つの国(仮想的な一つの領域)と捉えています。
(2)原産材料のみから生産される産品
締約国内の原産材料のみから、当該締約国において完全に生産される産品のことをいいます。生産に使用された材料は全て原産材料であるため、外見上は1か国で生産が完結しているように見えますが、原産材料の生産に使用された材料にまでさかのぼると、締約国以外の第三国の材料(非原産材料)が使用されています。
(3)実質的変更を満たす産品(品目別原産地規則を満たす産品)
非原産材料を使用して締約国において生産される最終産品が、元の材料から大きく変化(実質的変更)しているため、原産品と認められる産品をいいます。何を「実質的変更」とするかの基準については、HS番号ごとに「品目別原産地規則」としてまとめられ、各協定の附属書等になっています。
多くの協定において、品目別原産地規則は以下の3つのいずれかの考え方、あるいはその組合せを採用しています。
(a)関税分類変更基準
産品のHS番号と、使用された全ての非原産材料のHS番号に特定の変更が生じた場合に、実質的変更が行われたとする考え方。CC(他の類(2桁)からの変更)、CTH(他の項(4桁)からの変更)、CTSH(他の号(6桁)からの変更)があります。
(例)日EU協定
りんごジャム(HS20.07)の品目別原産地規則:CTH(以下省略)
(b)加工工程基準
特定の生産又は加工の工程が行われている場合に、実質的変更が行われたとする考え方。
(例)日EU協定
セーター(HS61.10)<裁断により形成し、又は直接に形成したメリヤス編物又はクロセ編物の二以上を縫い合わせ、又はつなぎ合わせて得られる産品>の品目別原産地規則:メリヤス編み又はクロセ編みと製品にすること(布の裁断を含む。)との組合せ
(c)付加価値基準
協定毎に定める計算式によって、一定の価値が付加された場合に、実質的変更が行われたとする考え方。
(例)日豪協定
乗用自動車(HS87.03)の品目別原産地規則:CTH又はQVC40(※)
※QVC(原産資格割合)、つまり、締約国内で付加された価値が40パーセント以上であること
【参考:原産地規則における「原産材料」、「非原産材料」について】
◆原産材料
協定の原産地規則を満たして原産品と認められる原材料のことです。例えば、以下の原材料をいいます。
- 完全生産品
- 原産材料のみから生産される産品
- 実質的変更基準を満たす産品(品目別原産地規則を満たす産品)
◆非原産材料
協定の原産地規則を満たさず、原産品とされない原材料(原産品としての資格を決定することができない原材料を含む。)のことです。例えば、以下の原材料をいいます。
- 非締約国から調達した原材料
- 締約国内で調達したが、どこで生産されたかわからない原材料
- 締約国内で生産されたが、協定の原産地規則を満たさない、又は満たしているか不明な原材料
- 原産地不明の原材料
次に、原産地規則を特定する流れを具体的にご説明します。
【例】産品:サウザンアイランドドレッシング(HS2103.90、CPTPP) |
---|
●生産工程:日本国内工場にて下記原材料を使用して生産 ●原材料: |
まずは産品の生産に使用した原材料の産地情報を確認します。
原材料のうち、A、Hは締約国内において生産されたものの、協定の原産地規則を満たしているか不明な材料であり、D、F、Jについては締約国内で調達したものの、どこで生産されたかわからない材料です。これらは全て一旦非原産材料として扱います。また、その他の材料については締約国外から調達した材料であるため、全て非原産材料として扱います。
上記のとおり、当該産品は非原産材料を使用していることから、完全生産品や原産材料のみから生産される産品としての要件を満たしておらず、協定上の原産品であると認められるためには、品目別原産地規則を満たしている産品であるかを確認することとなります。
適用される品目別原産地規則については、産品のHS番号に基づき、各協定の附属書や税関HP原産地規則ポータル掲載の「品目別原産地規則検索 検索画面」から確認することができます。
HS2103.90に適用される品目別原産地規則は以下のとおりとなります。
第2103.90号の産品への他の号の材料からの変更又は |
適用される品目別原産地規則が特定できたことから、次に産品が当該規則を満たすかを確認することとなります。
なお、このように複数規定されている場合、どの品目別原産地規則を適用するかは自由選択となります。
ステップ4 原産地規則を満たすかを確認
ステップ3で特定した原産地規則を満たすかについて、原産品であることを疎明する書類とともに確認していきます。
(1)完全生産品
産品や産品の生産に使用された原材料が全て締約国において完全に得られた産品であることを確認します。
<確認書類の例>
契約書、生産証明書、製造証明書、漁獲証明書等
(2)原産材料のみから生産される産品
生産に使用された全ての一次材料(産品の生産に直接使用される原材料)が、適用する協定の規定を満たす原産品と認められることを確認します。
<確認書類の例>
契約書、総部品表、製造工程フロー図、生産指図書、原材料の投入記録、製造原価計算書等
(3)実質的変更基準を満たす産品(品目別原産地規則を満たす産品)
産品のHS番号に係る品目別原産地規則の規定を満たしているか確認します。
(a)関税分類変更基準
産品のHS番号と、使用された全ての非原産材料のHS番号に品目別原産地規則で定められたとおりの変更が生じていることを確認します。特定のHS番号からの変更が除かれている場合がありますので、ご留意ください。
<確認資料の例>
総部品表、原材料一覧表、製造工程フロー図、生産指図書等
(b)加工工程基準
品目別原産地規則で定められた特定の生産又は加工の工程が行われていることを確認します。なお、加工工程基準の「化学反応」、「混合及び調合」等については、協定で定義が定められており、定められた要件を満たしているか確認する必要があります。
<確認資料の例>
契約書、製造工程フロー図、生産指図書、生産内容証明書等
(c)付加価値基準
協定毎に定める計算式に基づいて計算を行い、品目別原産地規則で定められた基準を満たしているか確認します。
<確認資料の例>
製造原価計算書、仕入書、伝票、請求書、支払い記録、製造工程フロー図等
【原産地規則の概要(P.3)】
次に、一般的に証明のしやすい実質的変更基準を満たす産品(品目別原産地規則を満たす産品)についてを例にして、原産性を確認する流れをご説明します。
【例】産品:コークス(HS2704.00、日EU協定) |
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●品目別原産地規則: |
- 関税分類変更基準:CTH
CTHは「産品の生産に使用された全ての非原産材料について項(4桁)変更が行われること」が求められているため、全材料表等で産品の生産に使用された全ての非原産材料(原産品であるか不明な原材料も含む。)のHS番号と産品のHS番号を特定します。そして、産品の生産に使用された全ての非原産材料と産品の間に4桁レベルで変更が起きていること(HS27.04の非原産材料が使用されていないこと)を確認します。 - 加工工程基準:化学反応若しくは混合及び調合が行われること
製造工程表等で、協定で定める化学反応若しくは混合及び調合が行われていることを確認します。 - 付加価値基準:MaxNOM50パーセント(EXW)又はRVC55パーセント(FOB)
「MaxNOM50パーセント(EXW)」とは、分母を産品の価額(EXW)、分子を非原産材料価額として計算した割合が50パーセント以下であること、「RVC55パーセント(FOB)」とは、分母を産品の価額(FOB)、分子を産品の価額から非原産材料価額を引いたものとして計算した割合が55パーセント以上であることが求められています。
製造原価計算書等でいずれかを満たすことを確認します。
ステップ5.輸出面での原産地手続
自己申告制度は、産品の輸入者、輸出者又は生産者自らが、当該産品が協定上の原産品である旨を明記した書面(以下、「原産品申告書」といいます。)を作成し、輸入者が輸入国税関にその原産品申告書を提出することにより、原産品であることを申告する制度です。日豪協定、CPTPP、日EU協定、日英協定及びRCEP協定(輸出者による自己申告制度の利用は相手国が豪州、ニュージーランドである場合のみ利用可。2022年6月1日時点)において採用されております。
(1)原産品申告書を作成
どの協定においても様式に定めはありませんが、協定毎に必要的記載事項等が異なります。詳細は以下リンク先の各協定自己申告制度の手引きをご参照ください。
<日豪協定>
<CPTPP>
<日EU協定>
- 協定第3・17条/附属書3−D(輸出者・生産者自己申告)
- 自己申告及び確認の手引き/手引き解説書
<日英協定>
- 協定第3・17条/附属書3−E(輸出者・生産者自己申告)
- 自己申告及び確認の手引き
<RCEP協定>
- 協定3・16条/附属書3B(輸出者・生産者自己申告)
- 「自己申告制度」利用の手引き
なお、原産品申告書以外に必要な書類については、相手国税関にご確認ください(我が国において提出を求めている「原産品申告明細書」の提出は不要です。)。
【原産地証明手続】
(2)疎明資料を保存
各協定及び経済連携協定に基づく申告原産品に係る情報の提供等に関する法律において、原産品申告書の作成者は原産品申告書の写し及び産品が原産品であることを示す他の全ての記録を保管する義務が規定されております。
協定 | 保存書類 | 保存期間 (※) |
根拠規定 |
---|---|---|---|
日豪協定 | 原産品申告書(写し) 契約書、仕入書、価格表、総部品表、製造工程表その他産品が原産品であることを示す全ての記録 |
5年間 | 協定第3・20条1(a) 法第5条 |
CPTPP | 5年間 | 協定第3・26条2(a) 法第5条 |
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日EU協定 | 4年間 | 協定第3・19条 法第5条 |
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日英協定 | 4年間 | 協定第3・19条 法第5条 |
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RCEP協定 | 3年間 | 協定第3・27条 法第5条 |
(※)書類の保存期間は、原産品申告書の作成の日から起算。
ステップ6.相手国におけるEPA税率の適用
相手国における手続に関しては、相手国税関当局にお問い合わせください。
ステップ7.必要に応じ相手国からの検証に対応
特恵税率を適用した輸出貨物について、相手国税関当局が、各協定等の規定に基づき、その貨物が輸出締約国(日本)の原産品であるか否かについての確認を事後的に行う際に、日本の輸出者・生産者が情報の提供を求められることがあります。
期限内に回答をしない場合や提供された情報が原産品であることを確認するために十分でない場合には、相手国税関当局により、特恵税率の適用が否認されることがありますので、ご注意ください。
【日本から輸出した貨物に対する輸入国からの確認について】
【事後確認】