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大蔵省告示第百七十五号
 パキスタン・イスラム共和国産綿糸に係る調査の開始の件(平成六年二月大蔵省告示第三十九号)で告示した関税定率法(明治四十三年法律第五十四号)第八条第五項の調査の結果、パキスタン・イスラム共和国(以下「パキスタン」という。)を原産地とする綿糸について、同条第一項の規定により不当廉売関税を課することが決定されたので、不当廉売関税に関する政令(平成六年政令第四百十六号)第十六条第一項の規定に基づき、次のとおり告示する。
 平成七年八月四日
大蔵大臣 武村 正義
一 関税定率法第八条第一項の規定による指定に係る貨物の品名、型式及び特徴
 (一) 品名 綿糸
(二) 型式 関税定率法の別表第五二〇五・一二号の二に掲げる綿糸(二七四・六七デシテックス以上三〇二・八四デシテックス以下のものであって綿のみから成るもののうち漂白してないもの(マーセライズしたものを除く。)に限る。)
(三) 特徴 綿花を原料とし、紡績工程を経て製造されたもののうち、精梳綿工程を経たもの(コーマ糸)を除いたものであり、主としてタオル、シーツ等に用いられる。
二 関税定率法第八条第一項の規定による指定に係る貨物の供給国
  パキスタン
三 関税定率法第八条第一項の規定により指定された期間
 二十番手等カード綿糸に対して課する不当廉売関税に関する政令(平成七年政令第三百八号)の施行の日から平成十二年七月三十一日までの期間
四 調査により判明した事実及びこれにより得られた結論
(一) 不当廉売された貨物の輸入の事実(以下「不当廉売の事実」という。)
 不当廉売の事実については、当該調査に係る貨物(以下「調査対象貨物」という。)のうちパキスタンを原産地とするもの(以下「パキスタン産綿糸」という。)の供給者のうち十七社のみが証拠を提出したので、当該証拠を用いて調査を行った。
 なお、当該十七社以外のパキスタン産綿糸の供給者(以下「証拠未提出供給者」という。)については、千九百九十四年の関税及び貿易に関する一般協定第六条の実施に関する協定(以下「ダンピング防止協定」という。)第六条の規定の趣旨に照らして、不当廉売差額の率を算出した。
  イ パキスタン産綿糸の正常価格
(イ) 当該十七社中四社(アザム・テキスタイル・ミルズ・リミテッド、ザ・クレセント・テキスタイル・ミルズ・リミテッド、サリトウ・スピニング・ミルズ・リミテッド及びサルマン・ノーマン・エンタープライズィズ・リミテッド)に係るパキスタン産綿糸については、当該四社各々について、パキスタンにおける販売量が本邦向け輸出量の五パーセント未満であると認められた。したがって、当該四社については、ダンピング防止協定第二条の規定の趣旨に照らして、パキスタンにおける消費に向けられるパキスタン産綿糸の価格をパキスタン産綿糸の正常価格として用いることが適当でないと認められた。
 また、当該四社は.パキスタンから本邦以外の国に輸出される調査対象貨物の輸出のための販売価格(以下「第三国向け輸出価格」という。)に関する証拠を提出しなかった。
 以上から、当該四社については、不当廉売関税に関する政令(以下「政令」という。)第二条第二項の規定により、パキスタン産綿糸の正常価格として、パキスタン産綿糸に係る生産費に通常の利潤並びに管理費、販売経費及び一般的な経費の額を加えた価格(以下「構成価格」という。)を用いることとした。
(ロ) 不当廉売関税を課することを求めた者(日本紡績協会。以下「申請者」という。)から提出された申請書によれば、パキスタン産綿糸は生産費に管理費、販売経費及び一般的な経費を加えたもの(以下「コスト」という。)を下回る価格による販売(以下「コスト割れ販売」という。)が行われているとされていたため、パキスタン産綿糸の供給者に対し、コストに関する証拠を提出することを求めたが、当該供給者は、コストに関する証拠を提出しなかった。したがって、コストに関する最大限の入手可能な情報として、当該十七社中(イ)の四社を除く十三社について、平成四年十月から平成五年九月までのパキスタン産綿糸に係る損益計算書等を用いた。
(ハ) その結果、(ロ)の十三社中四社(アポロ・テキスタイル・ミルズ・リミテッド、クェッタ・テキスタイル・ミルズ・リミテッド、サファイア・テキスタイル・ミルズ・リミテッド及びハジュラ・テキスタイル・ミルズ・リミテッド)については、コスト割れ販売は行われておらず、ダンピング防止協定第二条の規定の趣旨に照らし、かつ、政令第二条第二頃の規定に基づき、パキスタン産綿糸の正常価格として、パキスタンにおける消費に向けられる通常の商取引における価格を用いることとした。
(ニ) 他方、(ロ)の十三社中(ハ)の四社を除く九社(イテファック・テキスタイル・ミルズ・リミテッド、エリート・テキスタイル・ミルズ・リミテッド、シェイキュプラ・テキスタイル・ミルズ・リミテッド、シニョット・テキスタイル・ミルズ・リミテッド、スラジェ・コットン・ミルズ・リミテッド、ソヘイル・テキスタイル・ミルズ・リミテッド、パイオニア・スピニング・ミルズ・リミテッド、マームード・テキスタイル・ミルズ・リミテッド及びメール・ダスギール・テキスタイル・ミルズ・リミテッド)については、コスト割れ販売が行われていることにより、ダンピング防止協定第二条の規定の趣旨に照らして、パキスタンにおける消費に向けられるパキスタン産綿糸の価格をパキスタン産綿糸の正常価格として用いることが適当でないと認められた。
 また、当該九社は第三国向け輸出価格に関する証拠を提出しなかった。
 以上から、当該九社については、政令第二条第二項の規定により、パキスタン産綿糸の正常価格として構成価格を用いることとした。
(ホ) パキスタンにおける消費に向けられるパキスタン産綿糸の価格を正常価格として用いることとした(ハ)の四社については、当該四社が提出した証拠に基づきパキスタンにおける消費に向けられるパキスタン産綿糸の価格を算出した。
 パキスタン産綿糸の正常価格として構成価格を用いることとした(イ)の四社及び(ニ)の九社に対しては、構成価格に関する証拠を提出することを求めたが、当該十三社は当該証拠を提出しなかったので、アザム・テキスタイル・ミルズ・リミテッドを除き、各社が提出した平成四年十月から平成五年九月までのパキスタン産綿糸に係る損益計算書に基づき構成価
 格を算出した。
 アザム・テキスタイル・ミルズ・リミテッドについては、同社が提出した平成四年十月から平成五年九月までのパキスタン産綿糸に係る損益計算書が、同社の同期間の全体の損益計算書に照らして妥当性に欠けることから、当該全体の損益計算書に基づき構成価格を算出した。
 なお、構成価格の算出に用いた通常の利潤は、国内販売における価格があると認められた(ハ)の四社の売上高に対する経常利益の率の加重平均値である一・三四パーセントを用いて算出した。
(へ) 証拠未提出供給者については、最大限の入手可能な情報として、僅少でない不当廉売の事実があると認められたパキスタン産綿糸の供給者であるハの九社のパキスタン産綿糸の正常価格の加重平均値を、パキスタン産綿糸の正常価格として用いることとした。
ロ パキスタン産綿糸の本邦向け輸出のための販売価格
 当該十七社については、当該十七社が提出した証拠に基づき算出した。
 証拠未提出供給者については、最大限の入手可能な情報として、僅少でない不当廉売の事実があると認められたパキスタン産綿糸の供給者であるハの九社各々のパキスタン産綿糸の本邦向け輸出のための販売価格の加重平均値のうち最低のものを用いた。
  ハ パキスタン産綿糸の不当廉売差額
 当該十七社の各々については、政令第二条第三項の規定に基づき、かつ、ダンピング防止協定第二条の規定の趣旨に照らして、上記イの正常価格及びロの本邦向け輸出のための販売価格を工場渡しの段階に戻すことにより価格差につき必要な調整を行った上で、不当廉売差額の率(不当廉売差額を本邦のCIFベースの輸入価格で除した比率。以下同じ。)を算出した。
 なお、不当廉売差額の算出に当たっては、当該正常価格及び当該本邦向け輸出のための販売価格の加重平均値を用いた。
 その結果、九社(アザム・テキスタイル・ミルズ・リミテッド、イテファック・テキスタイル・ミルズ・リミテッド、エリート・テキスタイル・ミルズ・リミテッド、ザ・クレセント・テキスタイル・ミルズ・リミテッド、サリトウ・スピニング・ミルズ・リミテッド、サルマン・ノーマン・エンタープライズィズ・リミテッド、スラジェ・コットン・ミルズ・リミテッド、ソヘイル・テキスタイル・ミルズ・リミテッド及びメール・ダスギール・テキスタイル・ミルズ・リミテッド)に係るパキスタン産綿糸について、僅少でない不当廉売の事実があると認められ、それぞれの不当廉売差額の率は、二・一パーセントから七・九パーセントであると認められた。
 証拠未提出供給者については、上記イ(ヘ)の正常価格とロの本邦向け輸出のための販売価格との価格差により不当廉売差額の率を算出した。
供給者名
不当廉売差額の率
分類
アザム・テキスタイル・ミルズ・リミテッド(AZAM TEXTILE MILLS LTD.)
五・九パーセント
(イ)
アポロ・テキスタイル・ミルズ・リミテッド(APOLLO TEXTILE MILLS LTD.)
(ハ)
イテファック・テキスタイル・ミルズ・リミテッド(ITTEFAQ TEXTILE MILLS LTD.)
三・九パーセント
(ニ)
エリート・テキスタイル・ミルズ・リミテッド(ELITE TEXTILE MILLS LTD.)
三・八パーセント
(ニ)
クェッタ・テキスタイル・ミルズ・リミテッド(QUETTA TEXTILE MILLS LTD.)
(ハ)
ザ・クレセント・テキスタイル・ミルズ・リミテッド(THE CRESCENT TEXTILE MILLS LTD.)
七・〇パーセント
(イ)
サファイア・テキスタイル・ミルズ・リミテッド(SAPPHIRE TEXTILE MILLS LTD.)
(ハ)
サリトウ・スピニング・ミルズ・リミテッド(SARITOW SPINNING MILLS LTD.)
三・六パーセント
(イ)
サルマン・ノーマン・エンタープライズィズ・リミテッド(SALMAN NOMAN ENTERPRISES LTD.)
二・一パーセント
(イ)
シュイキュプラ・テキスタイル・ミルズ・リミテッド(SHEIKHUPURA TEXTILE MILLS LTD.)
〇・五パーセント
(ニ)
シニョット・テキスタイル・ミルズ・リミテッド(CHINIOT TEXTILE MILLS LTD.)
〇・一パーセント
(ニ)
スラジェ・コットン・ミルズ・リミテッド(SURAJ COTTON MILLS LTD.)
七・九パーセント
(ニ)
ソヘイル・テキスタイル・ミルズ・リミテッド(SOHAIL TEXTILE MILLS LTD.)
三・三パーセント
(ニ)
パイオニア・スピニング・ミルズ・リミテッド(PIONEER SPINNING MILLS LTD.)
(ニ)
ハジュラ・テキスタイル・ミルズ・リミテッド(HAJRA TEXTILE MILLS LTD.)
(ニ)
マームード・テキスタイル・ミルズ・リミテッド(MAHMOOD TEXTILE MILLS LTD.)
(ニ)
メール・ダスギール・テキスタイル・ミルズ・リミテッド(MEHR DASTGIR TEXTILE MILLS LTD.)
二・四パーセント
(ニ)
証拠未提出供給者
九・九パーセント
(ヘ)

(二) 本邦の産業に与える実質的な損害の事実(以下「損害の事実」という。)
 損害の事実については、調査対象貨物のうち本邦において本邦の生産者により生産されるもの(以下「国産綿糸」という。)の生産者六社が提出した証拠等を用いて調査を行った。
  イ パキスタン産綿糸の輸入量
 平成五年度時点では、平成三年度時点と比較して、パキスタン産綿糸の輸入の絶対量にはほぼ変化はないものの、調査対象貨物の国内需要量に占めるパキスタン産綿糸の輸入量の割合は、約六パーセント・ポイント増加したと認められた。
 
 平成三年度
 平成四年度
 平成五年度
パキスタン産綿糸の輸入量(指数)
     一〇〇
     八八・九
     九八・四
調査対象貨物の国内需要量に占めるパキスタン産綿糸の輸入量の割合(パーセント)
    七一・四
     六八・一
     七七・八

   (注) 指数は、平成三年度の値を一〇〇とする。
  ロ パキスタン産綿糸の価格が国産綿糸の価格に及ぼす影響
 本邦における調査対象貨物の産業上の使用者(以下「産業上の使用者」という。)渡しの段階において、パキスタン産綿糸の販売価格が国産綿糸の販売価格を下回っていることが認められた。
            (指数)
 平成三年度
 平成四年度
 平成五年度
国産綿糸の販売価格
     一〇〇
     七八・五
     八〇・五
パキスタン産綿糸の販売価格
    九四・二
     七七・九
     七一・九
国産綿糸の販売価格とパキスタン産綿糸の販売価格との価格差
      五・八
      〇・六
      八・六

   (注) 指数は、平成三年度の国産綿糸の販売価格を一〇〇とする。
  ハ パキスタン産綿糸の輸入が国産綿糸を生産している本邦の産業に及ぼす影響
(イ) 当該六社について、平成三年度から平成五年度にかけて、国産綿糸の売上高は半減し、国産綿糸に係る損益面では、営業損失及び経常損失が継続的に計上されていたと認められた。
            (指数)
 平成三年度
 平成四年度
 平成五年度
国産綿糸の売上高
     一〇〇
     七四・四
     五二・四
国産綿糸に係る営業損益
    ▲ 一〇〇
   ▲ 一〇〇・〇
   ▲ 一一八・二
国産綿糸に係る経常損益
    ▲ 一〇〇
   ▲ 一〇〇・〇
    ▲ 九四・七

 (注) 指数は、それぞれ平成三年度の値を一〇〇とする。▲は損失を示す。
(ロ) 当該六社について、平成三年度から平成五年度にかけて、国産綿糸の生産量及び販売量は共に三割程度減少し、在庫量は毎年継続的に増加したと認められた。
            (指数)
 平成三年度
 平成四年度
 平成五年度
国産綿糸の生産量
     一〇〇
     九一・八
     七一・六
国産綿糸の販売量
     一〇〇
     九四・六
     七〇・六
国産綿糸の在庫増
     一〇〇
     三一・四
     一九・一

 (注) 指数は、それぞれ平成三年度の値を一〇〇とする。
(ハ) 平成三年度から平成五年度にかけて、国産綿糸の総生産量に対するパキスタン産綿糸の輸入量の割合(以下「パキスタン産綿糸と国産綿糸の比」という。)は増加し、調査対象貨物の国内需要量に占める国産綿糸の総生産量の割合(以下「市場占拠率」という。)は減少したと認められた。
         (パーセント)
 平成三年度
 平成四年度
 平成五年度
パキスタン産綿糸と国産綿糸の比
    二六九・一
     二五九・七
     四〇九・四
市場占拠率
     二六・五
     二六・二
      一九・〇

(二) 当該六社について、平成三年度から平成五年度にかけて国産綿糸に係る生産能力、関係労働者数及び総労働時間は、三割程度減少したと認められた。
            (指数)
 平成三年度
 平成四年度
 平成五年度
国産綿糸に係る生産能力
      一〇〇
      九五・六
      七五・〇
国産綿糸に係る関係労働者数
      一〇〇
      八七・四
      七三・二
国産綿糸に係る総労働時間
      一〇〇
      八四・五
      六七・八

   (注) 指数は、それぞれ平成三年度の値を一〇〇とする。
(ホ) したがって、国産綿糸に係る営業損失及び経常損失が継続的に計上され、国産綿糸の売上高、生産量及び販売量が減少し、国産綿糸の在庫量及びパキスタン産綿糸と国産綿糸の比が増加し、市場占拠率、国産綿糸に係る生産能力、関係労働者数及び総労働時間が減少したと認められたため、本邦の産業には実質的な損害が生じていたものと認められた。
 (三) 不当廉売の事実と損害の事実との因果関係(以下「因果関係の事実」という。)
 因果関係の事実については、(一)のパキスタン産綿糸の供給者十七社及び(二)の国産綿糸の生産者六社が提出した証拠等を用いて調査を行った。
 イ 不当廉売されたパキスタン産綿糸の輸入量
 平成五年度には平成三年度に比べて、当該十七社のうち一ハにおいて僅少でない不当廉売の事実があると認められた九社を除く八社に係るパキスタン産綿糸を除いたパキスタン産婦糸の輸入(以下「不当廉売されたパキスタン産綿糸の輸入」という。)の絶対量はやや減少しているが、調査対象貨物の国内需要量に占める不当廉売されたパキスタン産綿糸の輸入量の割合は約四パーセント・ポイント増加したと認められた。
 
 平成三年度
 平成四年度
 平成五年度
不当廉売されたパキスタン産綿糸の輸入量(指数)
      一〇〇
      八八・五
      九五・六
調査対象貨物の国内需要量に占める不当廉売されたパキスタン産綿糸の輸入量の割合(パーセント)
     六〇・一
      五七・一
      六三・七

   (注) 一 指数は、平成三年度の値を一〇〇とする。
二 また、不当廉売されたパキスタン産綿糸の輸入量は、パキスタン産綿糸の輸入者が提出した証拠等から次のように推計した。
 平成五年度における当該証拠に係るパキスタン産綿糸の輸入については、僅少でない不当廉売の事実があるとされたパキスタン産綿糸の供給者に係るパキスタン産綿糸の輸入は全て不当廉売されたとみなし、その他のパキスタン産綿糸の供給者に係るパキスタン産綿糸の輸入は不当廉売されなかったとみなした。
 同年度における当該輸入者が提出した証拠に係るパキスタン産綿糸の輸入以外のパキスタン産綿糸の輸入についても、パキスタン産綿糸の輸入量に占める不当廉売されたパキスタン産綿糸の輸入量の割合(以下この(注)において「不当廉売されたパキスタン産綿糸の割合」という。)が、当該証拠に係るその割合と同じであったとして推計した。
 平成三年度及び平成四年度におけるパキスタン産綿糸の輸入についても、不当廉売されたパキスタン産綿糸の割合が、平成五年度におけるその割合と同じであったとして推計した。
  ロ 不当廉売されたパキスタン産綿糸の価格が国産綿糸の価格に及ぼす影響
 産業上の使用者渡しの段階において、不当廉売されたパキスタン産綿糸の販売価格が国産綿糸の販売価格を下回っていたと認められた。
            (指数)
 平成五年度
国産綿糸の販売価格
      一〇〇
不当廉売されたパキスタン産綿糸の販売価格
     八八・八
国産綿糸の販売価格と不当廉売されたパキスタン産綿糸の販売価格との価格差
     一一・二

 (注) 一 指数は、国産綿糸の平成五年度の販売価格を一〇〇とする。
二 国産綿糸の販売価格(本邦の生産者と商社との契約価格)には、商社の利潤は原則として含まれない。不当廉売されたパキスタン産綿糸の販売価格(パキスタン産綿糸の輸入者である商社と産業上の使用者との契約価格)には、商社の利潤が含まれる。
 したがって、国産綿糸の販売価格に商社の利潤を加えると、更に価格差は拡大するものと推定された。
ハ 不当廉売されたパキスタン産綿糸の輸入が国産綿糸を生産している本邦の産業に及ぼす影響平成五年度には平成三年度に比べて、国産綿糸の総生産量に対する不当廉売されたパキスタン産綿糸の輸入量の割合は、約百八パーセント・ポイント増加したと認められた。
         (パーセント)
 平成三年度
 平成四年度
 平成五年度
国産綿糸の総生産量に対する不当廉売されたパキスタン産綿糸の輸入量の割合
    二二六・七
     二一七・七
     三三五・二

 ニ その他の要因
 (イ) 為替相場の変化による影響
 平成五年度において、パキスタン産綿糸の供給者とパキスタン産綿糸の輸入者である商社との契約時点から当該商社と産業上の使用者との契約時点までの期間内の為替相場の変化による円べースの輸入価格の変動分を勘案し、不当廉売されたパキスタン産綿糸の販売価格につき調整を行っても、なお当該調整を行った後の不当廉売されたパキスタン産綿糸の販売価格と国産綿糸の販売価格との間には価格差が認められた。
国産綿糸の販売価格(指数)
      一〇〇

         (指数)
 調整前
 二か月調整後
三か月調整後
四か月調整後
不当廉売されたパキスタン産綿糸の販売価格
    八八・八
     九〇・九
     九一・六
     九二・四
国産綿糸の販売価格と不当廉売されたパキスタン産綿糸の販売価格との価格差
    一一・二
      九・一
      八・四
      七・六

 (注) 一 指数は、国産綿糸の平成五年度の販売価格を一〇〇とする。
二 二か月調整の場合、パキスタン産綿糸の輸入者である商社と産業上の使用者との契約のあった月の二か月前の為替相場(円/ドル)を当該月の為替相場(円/ドル)で除し、それを当該月の不当廉売されたパキスタン産綿糸の販売価格(円/梱)に乗じて、円べースの価格を算出した。三か月、四か月調整についても同様の方法を用いた。
  (ロ) 調査対象貨物の国内需要量の変化による影響
 平成三年度から平成五年度にかけて、調査対象貨物の国内需要量は約十パーセント減少したが、その間に国産綿糸の生産量は約三十五パーセント減少した。一方、平成三年度と平成五年度を比べると、不当廉売されたパキスタン産綿糸の輸入量は約四バーセントの減少にとどまったと認められた。
         (指数)
 平成三年度
 平成四年度
 平成五年度
調査対象貨物の国内需要量
     一〇〇
     九三・二
     九〇・三
国産綿糸の生産量
     一〇〇
     九二・二
     六四・七
不当廉売されたパキスタン産綿糸の輸入量
     一〇〇
     八八・五
     九五・六

 (注) 指数は、それぞれ平成三年度の値を一〇〇とする。
(ハ) 国産綿糸の原材料費等売上原価の下落による影響
 平成三年度に比べて平成五年度には、国産綿糸の主原料である綿花を含む売上原価は約十二パーセント下落したのに対し、国産綿糸の販売価格は約二十パーセント下落したと認められた。
         (指数)
 平成三年度
 平成四年度
 平成五年度
国産綿糸の原材料費
     一〇〇
     七一・七
     六八・二
国産綿糸の売上原価
     一〇〇
     八二・〇
     八八・三
国産綿糸の販売価格
     一〇〇
     七八・五
     八〇・五

  (注) 指数は、それぞれ平成三年度の値を一〇〇とする。
 ホ 以上のイからニまでを総合的に勘案して、因果関係の事実があると認められた。
(四) 最近のパキスタン産綿糸の輸入動向等
 最近のパキスタン産綿糸の輸入動向等については、貿易統計等により推計した。以下(四)においては、平成五年度から平成六年度の推移を見るため、平成五年度についても、平成六年度と同じ資料を用いた。なお、上記(二)及び(三)とは採用した資料が異なるため、平成五年度の調査対象貨物の生産量及び需要量の値は上記(二)及び(三)におけるそれとは異なっている。
 イ 調査対象期間後の期間におけるパキスタン産綿糸の輸入量
 調査対象期間後の期間においてパキスタン産綿糸の輸入の絶対量は減少しているものの、調査対象貨物の国内需要量に占めるパキスタン産綿糸の輸入量の割合は、約三パーセント・ポイント増加したと推計された。
 
 平成五年度
 平成六年度
パキスタン産綿糸の輸入量(指数)
      一〇〇
     七一・〇
調査対象貨物の国内需要量に対するパキスタン産綿糸の輸入量の割合(パーセント)
      八〇・二
     八二・九

 (注) 指数は、平成五年度の値を一〇〇とする。
ロ 調査対象期間後の期間におけるパキスタン産綿糸の価格が国産綿糸の価格に及ぼす影響
 調査対象期間後の期間においてパキスタン産綿糸の販売価格は依然として国産綿糸の販売価格を下回っていたと推計された。
平成六年
         (千円/梱)
 九月二十七日
 十月二十一日
 十一月十八日
 十二月十六日
国産綿糸の販売価格
     六一・五
     五七・〇
     六七・〇
     七一・五
パキスタン産綿糸の販売価格
     五七・〇
     五五・六
     六五・〇
     六八・〇
国産綿糸の販売価格とパキスタン産綿糸の販売価格との価格差
      四・五
      一・四
      二・〇
      三・五

平成七年
         (千円/梱)
 一月十三日
 二月十日
 三月十日
 四月七日
国産綿糸の販売価格
     七七・〇
     七九・〇
     七二・五
     六〇・五
パキスタン産綿糸の販売価格
     七二・〇
     七二・〇
     六二・五
     五七・〇
国産綿糸の販売価格とパキスタン産綿糸の販売価格との価格差
      五・〇
      七・〇
     一〇・〇
      三・五

(注) パキスタン産綿糸の販売価格は「日経マンスリー」により、国産綿糸の販売価格は「日経デイリー」による。
ハ 調査対象期間後の期間におけるパキスタン産綿糸の輸入が本邦の産業に及ぼす影響
 調査対象期間後の期間において国産綿糸の生産量に対するパキスタン産綿糸の輸入量の割合は、五十パーセント・ポイント以上増加したと推計された。
        (パーセント)
 平成五年度
 平成六年度
国産綿糸の生産量に対するパキスタン産綿糸の輸入量の割合
    六〇一・七
    六五二・八

ニ 以上のイからハまでを総合的に勘案して、調査対象期間後の期間において大きな事情の変更は認められず、損害の事実がなくなったとは認められない。
 (五) 結論
 以上の(一)から(四)により、パキスタン産綿糸については、不当廉売の事実、損害の事実及び因果関係の事実があり、かつ、本邦の産業を保護するため必要があると認められたことから、(一)のパキスタン産綿糸の供給者十七社のうち(一)ハにおいて僅少でない不当廉売の事実があると認められた九社を除く八社に係るパキスタン産綿糸を除き、(一)ハの表の不当廉売差額の率により不当廉売関税を課することが決定された。
 五 その他参考となるべき事項
(一) 申請者が本邦の産業に有する利害関係に関する事項等
 申請者は国産綿糸の生産者二十四社を会員として含む団体であり、申請時において、当該二十四社は国産綿糸の総生産量の五十パーセント以上を生産している。また、当該二十四社には、本邦の生産者から除外される生者(パキスタン産綿糸の供給者若しくは輸入者と政令第四条第二項に規定する関係を有する生産者又はパキスタン産綿糸を申請書が受理された日の六月前の日以後に輸入した生産者)に該当する者は含まれていない。したがって、申請者は、本邦の産業に利害関係を有する者に該当し、本件についての申請適格性を有すると認められた。
 また、当該二十四社のうち、四(二)の国産綿糸の生産者六社の平成二年六月から平成五年五月における国産綿糸の生産量が国産綿糸の総生産量に占める割合は七十七パーセントであることから、当該六社は、本邦の産業に該当すると認められた。
(二) これまでの調査経過
イ 平成五年十二月二十日、申請者は、パキスタン産綿糸に対し不当廉売関税を課することを求める申請書を政府に提出した。
ロ 平成六年二月十八日、政府は、申請者の求めが不当廉売の事実、損害の事実及び因果関係の事実について十分な証拠を備えており、かつ、必要があると認められると判断して、調査を開始することとし、直接の利害関係人に対し書面により通知するとともに、官報で告示し、また、同年三月、大蔵省及び通商産業省の職員から成る調査担当者団を設置した。
ハ 平成六年四月、政府は、国産綿糸の生産者、パキスタン産綿糸の輸入者及びパキスタン産綿糸の供給者に対し証拠の提出を求めるため質問状を送付した。当該質問状に対して、六月下旬までに国産綿糸の生産者十三社、パキスタン産綿糸の輸入者二十五社及びパキスタン産綿糸の供給者十七社から証拠が提出された。さらに、その後も必要に応じて更なる証拠の提出を求めるため追加質問状を送付しており、それに対しても一部の者から証拠が提出された。
 なお、調査の対象となる期間は、不当廉売の事実については、平成五年一月から十二月、損害の事実については、平成三年四月から平成六年三月とした。
ニ 平成六年八月三十日、政府は、その時点においては、不当廉売の事実、損害の事実及び因果関係の事実を確定できる状況になく、また、調査開始以降輸入が減少していることから、今後大幅な事情の変更が生じない限り、調査の終了前に暫定措置はとらないこととする旨を公表した。
ホ 平成六年六月、パキスタン産綿糸の供給者の団体である全パキスタン繊維工業者協会から政府に対し、申請者に対する対質の申出があり、申請者もこれに同意したので、同年十月四日に対質を行った。また、同協会からは併せて証言の申出もあり、同年十月六日に証言がなされた。
へ 平成六年十一月から十二月にかけて、政府は、パキスタンにおいて四(一)のパキスタン産綿糸の供給者十七社について不当廉売の事実に関する証拠につき検証を行う一方、本邦において四(二)の国産綿糸の生産者六社及び輸入者三社について損害の事実に関する証拠につき検証を行った。
ト 平成七年二月十日、政府は、一部の利害関係者からの追加の証拠の提出が遅れたこと等を理由として二箇月間、同年四月十七日、最近の調査対象貨物の輸入動向等を勘案して、当該本邦の産業を保護するための必要についても更に検討する必要が生じたため四箇月間、それぞれ調査の期間を延長することとし、直接の利害関係人に対し書面により通知するとともに、官報で告示した。
チ 平成七年五月十二日、政府は、不当廉売関税を課するかどうかの決定の基礎となる重要な事実を直接の利害関係人に対し書面により通知し、証拠の提出を求めたところ、同月二十六日、一部の直接の利害関係人から証拠が提出された。
リ 平成七年六月十九日、産業上の使用者から政令第十三条第二項の規定に基づいた情報の提供があり、これにより、同年五月十二日に開示した内容について一部に変更の必要が生じたため、同年七月十一日、当該変更部分につき直接の利害関係人に対し書面により通知し、証拠の提出を求めたところ、証拠の提出はなかった。
ヌ チの証拠を検討した結果、不当廉売関税を課するかどうかの決定の基礎となる重要な事実を変更する必要はないものと認められた。

(平成7年8月4日官報号外第147号掲載)

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